同じ「70t吊り」のクレーンでも、クローラクレーンとラフテレーンクレーン(ラフター)では、得意な現場がまったく違います。その違いを生んでいる大きな理由の一つが、ブームのつくりです。
移動式クレーンのブームには、大きく分けて次の2種類があります。
- ラチスブーム:鋼管や形鋼を三角形に組んだ、鉄塔のようなブーム
- テレスコブーム(伸縮ブーム):箱形の筒を何段も重ね、油圧で伸び縮みさせるブーム
この記事では、2つのブームの構造と得意・不得意を整理したうえで、「同じ70t級なら、クローラとラフターのどちらを選べばよいのか」という選び方につなげます。
※この記事は、ブームの種類ごとの一般的な傾向を紹介するものです。同じ種類のブームでも、メーカーや型式、組み方によって性能は大きく違います。実際に作業できるかどうかは、必ずその機械の定格総荷重表と取扱説明書、現場の作業計画で確認してください。
ブームの種類で何が変わるのか
ブームは、クレーンが荷を吊るための「腕」です。腕のつくりが違うと、次のようなところが変わります。
- どれだけ高く・遠くまで荷を運べるか(揚程と作業半径)
- 長くしたときに、どれだけ重い荷を吊れるか(吊り上げ能力の落ち方)
- 長さを変えるのにどれだけ手間がかかるか(段取りと組立)
- 現場までどう運ぶか(自走か、分解してトレーラか)
国内の現場で見かけるクレーンでは、おおまかに次の組み合わせが多くなっています。
| クレーンの種類 | 主なブーム |
|---|---|
| ラフテレーンクレーン(ラフター) | テレスコブーム |
| オールテレーンクレーン | テレスコブーム(大型機ではラチスのジブを追加することも) |
| クローラクレーン | ラチスブームが主流。テレスコブームの機種もある |
クレーン本体の種類ごとの違いは「ラフター・オールテレーン・クローラクレーンの違い」で詳しく比べています。この記事では、ブームに注目して見ていきます。
ラチスブームの特徴

構造
ラチスブームは、太い主管(4本の柱)を、細い斜材でジグザグにつないだトラス構造のブームです。送電線の鉄塔や、鉄橋の骨組みと同じ考え方で、軽いのに曲がりにくいのが特徴です。
ブームは、根元の部分(ベースブーム)、先端の部分(トップブーム)、その間に入れる中間ブームに分かれています。中間ブームの本数を増やしたり減らしたりして、ブームの長さを決めます。

得意なこと
- 長いブームでも吊り上げ能力が落ちにくい:ブーム自体が軽いので、ブームを長くしても「ブームの重さで能力を食われる」分が少ない
- 高揚程・遠い作業半径の作業:高層の鉄骨建方や、遠くまで荷を届ける作業で力を発揮する
- 組み方の幅が広い:ブームの先にジブ(補助のブーム)を付けたり、ブームを立てて先端のジブを起伏させるタワー仕様にしたりして、作業範囲を広げられる
- 大型化しやすい:数百t級以上の超大型クレーンの多くはラチスブーム

苦手なこと
- 長さを変えるのに組み替えが必要:作業の途中で「もう少し長く」ができない。長さを変えるには、ブームを地面に下ろして中間ブームを抜き差しする
- 組立・解体に手間とスペースがかかる:ブームを地面に寝かせて組むので、ブームの長さ分の組立ヤードと、補助クレーンが必要
- 輸送は分解して:中間ブームなどの部材を、複数台のトレーラで運ぶ
- 狭い場所での取り回し:長いブームを立てたままでは、障害物の多い場所での段取り替えが難しい
テレスコブーム(伸縮ブーム)の特徴

構造
テレスコブームは、太さの違う箱形の筒(ボックス構造)を入れ子にしたブームです。望遠鏡(テレスコープ)のように、内側の筒を油圧シリンダなどで押し出して伸ばし、引き込んで縮めます。
ラフターやオールテレーンクレーンのブームは、ほとんどがこのテレスコブームです。
得意なこと
- 長さをすぐに変えられる:運転席の操作だけでブームを伸び縮みでき、組み替えがいらない
- 到着してすぐ作業できる:ブームを縮めた状態で車体に収まっているので、現場に着いたらアウトリガーを張り出してすぐに作業を始められる
- 狭い現場での取り回し:ブームを短くしたまま旋回したり、障害物をよけながら長さを調整したりしやすい
- 場所を変えながらの作業:作業場所を転々とする設備搬入や、1日に何か所も吊る作業と相性がよい
苦手なこと
- 伸ばすほど能力が大きく下がる:箱形のブームは重く、伸ばすとブーム自体の重さとたわみが能力を食う。長いブーム・遠い作業半径では、同じクラスのラチスブームより吊れる重さが小さくなりやすい
- 最大の長さに限りがある:筒を入れ子にする構造上、伸ばせる長さには上限がある。それ以上の高さが必要なときは、先端にラチス構造のジブを付けて対応する
- 伸ばし方にも条件がある:ブームの各段をどの順番・どの長さまで伸ばすかによって荷重表が分かれている機種が多い。荷重表の注記まで確認が必要
吊り上げ能力はどれくらい違うのか
「70t吊り」というのは、ごく短い作業半径で吊れる最大の重さを表した呼び名です。実際の作業では、作業半径とブームの長さによって、吊れる重さは大きく下がります。
能力の違いが出やすいのは、次のような条件です。
| 条件 | テレスコブーム(ラフター) | ラチスブーム(クローラ) |
|---|---|---|
| 短いブーム・近い作業半径 | 呼び名に近い能力が出る | 呼び名に近い能力が出る |
| 長いブーム・遠い作業半径 | ブームの重さで能力が大きく下がりやすい | 能力が残りやすい |
| 能力を左右する設定 | アウトリガーの張り出し幅(最大・中間・最小など) | ブームの組み方、ジブの有無、カウンタウエイトの量 |
| 長さの変更 | 作業中でも操作だけでできる | 組み替えが必要 |
つまり、近くの荷を吊るなら差は小さく、高く・遠くへ運ぶほど差が開くと考えておくとよいでしょう。
ラフターの場合は、アウトリガーをどこまで張り出せるかも能力を大きく左右します。張り出し幅ごとに荷重表が分かれていて、現場の都合で最大まで張り出せないと、同じ機種でも吊れる重さがかなり小さくなります。
具体的な数値は、機種によって大きく違います。この記事では数値を載せていません。候補の機種の定格総荷重表で、実際の作業半径・ブーム長さ・アウトリガーの張り出し幅(クローラなら組み方)の条件で確認してください。荷重表の読み方は「定格総荷重表の読み方」で解説しています。

テレスコブームのクローラクレーンもある
クローラクレーンにも、テレスコブームを持つ機種があります(テレスコピック・クローラクレーン)。クローラの接地の安定さや吊り荷走行と、テレスコブームの段取りの速さを組み合わせたもので、基礎工事や中規模の揚重で使われています。
「クローラ=ラチス」「ラフター=テレスコ」とは限らないので、手配の際はブームの形式も確認しましょう。
同じ70t級なら、クローラとラフターのどちらを選ぶか
ここまでのブームの違いを踏まえて、同じ70t級のクローラクレーン(ラチスブーム)とラフテレーンクレーン(テレスコブーム)を比べてみます。
ひとことで言うと、
- ラフターは「機動力」と「段取りの速さ」で選ぶ機械
- クローラは「高く遠い作業」「軟らかい地盤」「長期の据え付け」「吊ったままの移動」で選ぶ機械
です。
| 項目 | ラフター(70t級) | クローラ(70t級) |
|---|---|---|
| 現場への移動 | 自走で現場入り(中型以上は特殊車両通行許可が必要なことが多い) | 分解してトレーラ数台で輸送 |
| 段取り | 到着後、アウトリガーを張り出せばすぐ作業できる | 組立に時間がかかり、補助クレーンと組立ヤードが必要 |
| 支え方 | アウトリガー4点に力が集中する。敷鉄板や地盤の強さの確認が重要 | クローラで荷重を分散でき、地面にかかる圧力が小さい |
| 吊ったままの走行 | 基本的にできない | 荷重表の範囲内でできる |
| ブーム | テレスコ。長さを素早く変えられる | ラチスが主流。高揚程・遠い作業半径で能力が出やすい |
| 費用の傾向 | 短期・スポットの作業なら割安 | 輸送費と組立費がかかるが、長期なら割安になりやすい |

選び方のポイント
- 工期:数時間〜数日のスポット作業ならラフター、数週間〜数か月の据え付けならクローラが有利
- 揚程・作業半径:「70t」で比べず、実際の半径・揚程で荷重表を比べる。高く遠い作業ではラチスブームのクローラが勝つことが多い
- 地盤:造成地、河川敷、ぬかるみなど地盤に不安があるならクローラ。ラフターを使うなら、アウトリガーにかかる力を計算し、敷鉄板で対応できるか確認する。ただしクローラは地盤の傾きに弱いので、水平に整地する必要がある(「クローラクレーンは地盤の傾きに弱い」)
- 吊り荷の移動:吊ったまま移動したいならクローラ
- 搬入条件:進入路の幅や重量制限、組立スペースの有無。狭い市街地ではラフター、組立ヤードを取れる広い現場ではクローラが向く
- 作業内容:場所を転々とする作業(設備搬入、複数か所の吊り)はラフター、同じ場所で繰り返す作業(杭打ち、鉄骨建方など)はクローラ向き
迷ったときは、「何tを・何mの作業半径で・何mの高さまで」という条件に、工期と地盤の情報を添えてクレーン会社に伝え、両方の機種の荷重表と見積もりで比べるのが確実です。相談するときにそろえておきたい情報は、「ラフター・オールテレーン・クローラクレーンの違い」の選び方の章にまとめています。
近くでクレーンを手配できる会社を探したいときは、クレーンを探すから、地図で業者を探せます。
まとめ
- ラチスブームは、軽くて曲がりにくいトラス構造。長いブーム・遠い作業半径でも能力が落ちにくく、高揚程の作業や大型機に向く。その代わり、長さを変えるには組み替えが必要で、組立ヤードと補助クレーンがいる
- テレスコブームは、箱形の筒を伸び縮みさせる構造。長さをすぐ変えられ、到着後すぐ作業できる。その代わり、伸ばすほど能力が大きく下がる
- 能力の差は、近くでは小さく、高く・遠くになるほど開く。ラフターはアウトリガーの張り出し幅でも能力が大きく変わる
- 同じ70t級なら、短期・機動力重視はラフター、高く遠い作業・軟弱地盤・長期・吊り荷走行はクローラが基本。最後は実際の条件で荷重表を比べて決める
実際に作業できるかどうかは、必ずその機械の定格総荷重表と取扱説明書、現場の作業計画で確認してください。
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