はじめに:「世界一」は物差しで変わる
「世界最大のクレーンは?」と聞かれると、じつは答えがひとつに決まりません。
- いちばん重いものを吊れる(定格荷重・吊り能力)
- いちばん高くまで届く(揚程・ブーム長さ)
- 実際にいちばん重いものを吊った(吊り上げ記録)
- いちばん小さい・いちばん古い
と、物差しによって主役が入れ替わるからです。さらに「陸上か海上か」「移動式か、造船所に据え付けの固定式か」でも別の世界になります。
この記事では、海外も含めて物差しごとの“世界一”クラスのクレーンを集めてみました。移動式クレーン(クローラクレーン・オールテレーン)の最大機種は、下の2本でくわしく紹介しているので、ここでは軽く触れるだけにします。
クローラクレーンの歴史と最大機種|国産1,250tから世界最大4,500tまでクローラクレーンはどのように生まれ、どこまで大きくなったのか。蒸気・機械式の時代から全油圧化、超大型化までの歴史を、世界と日本に分けてたどり…記事を読む
ホイールクレーンの歴史と最大機種|国産700tから世界4,000tまでタイヤで走る移動式クレーン「ホイールクレーン」(ラフター・オルター・ラチスブームホイールクレーン)は、どのように生まれ、どこまで大きくなった…記事を読む※数値は各社の発表・ギネス世界記録・業界誌の記事による、2026年11月時点の情報です。「世界最大」「世界最小」は多くがメーカーや運用会社の自己申告で、測り方もそろっていない点はご了承ください。
陸上で最強:6,000t吊りの「リングクレーン」
陸上で最も吊り能力が大きいのは、リングクレーンと呼ばれる種類です。地面に大きな円形のレール(リング)を敷き、その上を上部旋回体ごとぐるりと回る仕組みで、普通のクローラクレーンのように自走はできません。部材をコンテナに分けて運び、現場で組み立てます。
Mammoet「SK6000」:最大6,000t(2024年)
オランダの重量物輸送会社マムート(Mammoet)が開発したSK6000は、最大6,000tの吊り能力をもち、同社は「世界最強の陸上クレーン」と発表しています。2024年にオランダの自社ヤードで約3か月の試験を行い、ジブ付きで3,000tを高さ220mまで吊れることを確認しました。
おもしろいのは動力で、電力系統につないで完全電動で動かせる設計です。電源のない現場では、蓄電池や水素発電機でも動かせるとされています。
Sarens「SGC-250」:最大5,000t(2018年)
ベルギーのサレンス(Sarens)のSGC-250(愛称 Big Carl)は、最大5,000t、能力の指標であるモーメント25万t・m。2018年に発表され、イギリスのヒンクリー・ポイントC原子力発電所の建設で、大型のモジュールを吊るために使われています。カウンタウエイトは100t入りのコンテナを最大52個、合計5,200tにもなります。
移動式の最大級は、クローラクレーンで3,000〜4,500tクラス。リングクレーンはその上の世界です。
世界一高い:揚程250mクラス
「高さ」で見ると、上のSGC-250が最大高さ250mとされ、陸上クレーンの最高クラスです。

250mは、東京都庁第一本庁舎(約243m)をやや上回る高さです。
伸縮式のテレスコブームに限ると、リープヘル(Liebherr)のオールテレーンLTM 11200-9.1が、ブーム長さ100mで「世界一長いテレスコブーム」としてギネス世界記録に認定されています(2007年)。日本にも導入されている機種で、くわしくはホイールクレーンの記事で触れています。
世界最重量:2万tを吊った門形クレーン
「実際にいちばん重いものを吊った」のは、移動式ではなく、造船所に据え付けられた門形(ガントリー)クレーンです。

「Taisun(泰山)」:20,133tでギネス記録(2008年)
中国・山東省の煙台にある造船所の門形クレーンTaisunは、2008年4月18日に20,133tを吊り上げ、ギネス世界記録「クレーンが吊り上げた最も重い重量」に認定されています。吊ったのは、水を張って重くしたはしけ(バージ)でした。
- 高さ:133m
- スパン(脚と脚の間):120m
- 最大揚程:80m
海洋プラットフォームの上部構造など、巨大なブロックを丸ごと吊るためのクレーンです。
「Honghai(宏海)」:定格22,000t(2014年)
能力だけで言えば、中国・江蘇省のHonghaiクレーンが定格22,000tで、Taisunを上回ります。300t吊りのフックを48個並べて、合計で吊る仕組みです。こちらはギネス認定の記録としては確認できなかったので、「能力では最大級」と紹介しておきます。
海の上では:起重機船「Sleipnir」15,300t(2019年)
海の上の最大級は、オランダのヘーレマ(Heerema)の起重機船Sleipnirです。1基1万tのクレーンを2基載せ、合計2万t。2019年9月、地中海の天然ガス田向けに15,300tの上部構造を吊り、起重機船の吊り上げ記録として発表されました。
日本では、深田サルベージ建設の3,700t吊り起重機船「武蔵」などが、橋の大型ブロック架設で活躍しています。
タワークレーンの最大:720t吊り(2023年)
ビル建設でおなじみのタワークレーンにも“怪物”がいます。中国のズームライオン(Zoomlion)が2023年4月に発表したR20000-720は、最大720t、モーメント2万t・m、最大揚重高さ400m。その前の記録機(2021年、450t吊り)を2年で塗り替えました。
世界最小:幅約60cmのミニ・クローラクレーン
反対に「いちばん小さい」側の主役は、日本メーカーです。
古河ユニックのURW-094は、吊り能力約1t(0.995t)、全幅約60cm、本体質量約1tのミニ・クローラクレーン。英国の販売代理店は「世界最小のミニクレーン」として紹介しています。2005年に同クラスの1t機が欧州で発表されたときも、「世界最小・最軽量のミニクレーン」とうたわれました。
幅60cmなら、一般的な住宅のドアや通路を通り抜けられるサイズです。脚(アウトリガー)をクモのように広げて据え付けるので、海外では「スパイダークレーン」、日本では「カニクレーン」とも呼ばれます。ビルの中のガラス入れ替えや、狭い中庭での作業などで重宝されています。
世界最古:クレーンの始まりと、現存する中世クレーン
クレーンの始まりは古代ギリシャ
てこを使ってものを持ち上げる道具は、紀元前3000年ごろのメソポタミアの「はね釣瓶(シャドゥーフ)」までさかのぼると言われます。ただ、滑車とロープで石を吊る“クレーンらしいクレーン”が建設に使われ始めたのは、紀元前6世紀後半の古代ギリシャと考えられています。神殿の石材に、吊り具を引っかけるための穴や溝が残っているのが証拠です。
古代ローマでは、滑車を組み合わせたクレーンを人が踏み車(トレッドホイール)で回し、約6tまで吊れたとされています。
現存する中世の港湾クレーン「グダニスクのクレーン」
いま見られる古いクレーンの代表が、ポーランド・グダニスクの港にあるŻuraw(ジュラフ)です。木造の港湾クレーンの記録は1367年までさかのぼり、焼失後、1442〜1444年にれんがと木で建て直されたのがいまの姿です。
- 中に大きな踏み車が2対あり、人が中を歩いて回した
- 4人で約2tを吊れた
- 船のマストを立てる作業にも使われた
第二次世界大戦で木造部分が焼け落ちましたが、戦後に復元され、1962年からは国立海洋博物館の一部として公開されています。ドイツ・トリーアの石造りのクレーン(1413年)など、ヨーロッパには中世の港湾クレーンが今も十数基残っています。
日本の“100歳超え”:1909年のジャイアント・カンチレバークレーン
日本にも、世界に誇れる古いクレーンがあります。長崎の三菱重工業 長崎造船所にあるジャイアント・カンチレバークレーンです。
- 完成:1909年(明治42年)、英国製
- 定格荷重:150t
- 高さ:約62m
- 2015年、「明治日本の産業革命遺産」として世界遺産に登録
ハンマーヘッド形と呼ばれる、塔の上に長い腕を水平に載せた形のクレーンで、完成から100年以上、現役で使われてきたことで知られています。
ただし三菱重工は2026年9月、老朽化のため2026年12月上旬に上部の構造を地上に降ろし、くわしい調査をすると発表しました。調査の期間は未定です。あの姿を長崎港で見られるのは、ひとまず今年いっぱいかもしれません。
まとめ:物差しごとの“世界一”
| 物差し | クレーン | 数字 | 種類 |
|---|---|---|---|
| 陸上の吊り能力 | SK6000 | 最大6,000t | リングクレーン |
| 陸上の高さ | SGC-250 | 最大高さ250m | リングクレーン |
| テレスコブームの長さ | LTM 11200-9.1 | 100m | オールテレーン |
| 吊り上げ記録 | Taisun | 20,133t | 門形クレーン |
| 定格荷重 | Honghai | 22,000t | 門形クレーン |
| 海上の吊り上げ記録 | Sleipnir | 15,300t | 起重機船 |
| タワークレーン | R20000-720 | 最大720t | タワークレーン |
| 最小(メーカー公称) | URW-094 | 約1t・幅約60cm | ミニ・クローラ |
| 現存する中世クレーン | グダニスクのŻuraw | 1442〜1444年 | 踏み車式 |
| 日本の100歳超え | ジャイアント・カンチレバークレーン | 1909年 | ハンマーヘッド形 |
上は大きさや強さ、下は小ささや古さ。どれも「その現場で、それが必要だったから」生まれたクレーンです。普段の現場で見かけるラフターやクローラクレーンも、この長い歴史と大きな広がりの一部だと思うと、少し見え方が変わってくるかもしれません。

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