クレーンの事故の中でも、風はやっかいな相手です。地面のようにあらかじめ調べておくことができず、作業中に急に強くなったり、向きが変わったりします。
しかも、地上では「少し風があるな」くらいでも、ブームの先ではずっと強い風が吹いていることがあります。
この記事では、
- 法令で決まっていること
- 平均風速と瞬間風速、高さによる違い
- 国内メーカー4社が勧める強風時の対応
- ラフター・オールテレーンとクローラクレーンで何が違うか
- 現場で使えるチェックリスト
を順に紹介します。
※この記事は、各メーカーが公開している資料をもとに考え方をまとめたものです。数値や手順は機種ごとに違います。実際の作業では、必ずその機械の取扱説明書とメーカーの指示に従ってください。
法令で決まっていること
移動式クレーンの強風対策は、クレーン等安全規則(クレーン則)で次の2つが決められています。
| 条文 | 内容(要約) |
|---|---|
| 第74条の3 強風時の作業中止 | 強風のため、移動式クレーンの作業に危険が予想されるときは、作業を中止しなければならない |
| 第74条の4 強風時における転倒の防止 | 作業を中止したあとも転倒のおそれがあるときは、ジブ(ブーム)の位置を固定させるなどして、転倒による危険を防がなければならない |
ここでいう「強風」は、行政の解釈で10分間の平均風速が毎秒10m以上の風とされています。
ポイントは、「作業をやめたら終わり」ではないことです。第74条の4にあるとおり、止めたあとのクレーンの姿勢まで、きちんと考えておく必要があります。
平均風速と瞬間風速、そして「高さ」

平均風速と瞬間風速はちがう
天気予報やニュースの風速は、ふつう地上10mでの10分間の平均風速です。一方、実際には風は強くなったり弱くなったりしていて、ある瞬間の風の強さを瞬間風速といいます。
コベルコ建機の資料では、瞬間風速は平均風速の1.5〜3倍程度に達することがある、と気象庁の説明を引いて注意しています。住友重機械建機クレーンの資料でも、風速計がない場合は平均風速に1.5〜1.7をかけて瞬間風速を見積もるよう案内しています。
つまり、予報で「平均風速7m/s」でも、突風は10m/sを超えることがあるということです。

高いところほど風は強い
風は、地面から離れるほど強くなります。コベルコ建機の資料には、地上高ごとの風速の目安を示した換算表が載っています。
たとえば、地上10mで平均風速10m/sのとき、高さ50mの平地では瞬間風速がおよそ20m/s前後になる、という目安です。市街地やビルの谷間では、さらに強くなることもあります。
ブームを長く伸ばしているときほど、地上で感じる風と、ブームの先が受ける風の差は大きくなります。
正確な数値は、コベルコ建機「強風時のクローラクレーン休車姿勢」の風速換算表で確認してください。

メーカーが勧める強風時の対応
国内メーカーが公開している資料から、強風時の対応をまとめます。各社とも、機種ごとの細かな数値は取扱説明書で確認するよう求めています。
タダノ(ラフター・オールテレーン)
タダノは、強風でラフターが転倒した事故の事例を公開しています。
- 最大瞬間風速が10m/s以上になったら、作業を中止してブームを格納する
- 10m/s未満でも、ブームを長く伸ばしているときや、風を受けやすいつり荷のときは、状況によって作業を中止する
- 強風でつり荷があおられると、作業員や周りの構造物に当たる危険がある。風の力がつり荷の重さに加わり、ブームの破損や転倒につながる
紹介されている事故は、作業後にいっぱいまで伸ばしたブームを、格納するために旋回させたところ、強風でブームが定格の低い方向(アウトリガの張り出しが小さい側)へ押され、転倒したというものです。当日は暴風警報が出ていて、最大瞬間風速は20m/sを超えていました。
ここから学べるのは、「格納しよう」と動かした瞬間も危ないということです。風が強くなってからブームを動かすのではなく、強くなる前に格納するのが大切です。

コベルコ建機(クローラクレーン)
コベルコ建機は「強風時のクローラクレーン休車姿勢」という資料で、ブーム先端付近の瞬間風速をもとに、段階ごとの対応を示しています。
| 瞬間風速(ブーム先端付近) | 主な対応 |
|---|---|
| 10m/s以下(通常) | 休車時は、ブーム角度を約60度にする(機種によって違う) |
| 10〜16m/s | 作業を中止。つり荷を下ろしてフックから外す → ブーム角度を約60度に → カウンタウエイト側を風上に向け、風をブームの背面から受ける → フックを巻き上げる → レバーを中立・ロック → ドラムロック・旋回ロック → エンジン停止 |
| 16〜30m/s | 上の対応に加えて、アンカウエイトをとる(フックを掛けたアンカウエイトを接地させたまま、巻上ロープを張っておく) |
| 30m/s超 | ブームを地上に下ろす |
あわせて、次のことも書かれています。
- カウンタウエイト側を風上に向けられない場合は、16m/s以下でもアンカーをとる
- 台風など風向きや風速が変わる天気では、ブームの姿勢を途中で変えるのは難しい。30m/sを超えそうなときは、前もってブームを地上に下ろしておく
- ブームをいっぱいまで起こしているときに前から強い風を受けると、後ろへ倒れるおそれがある
- 鉄板など風を受ける面積が大きい荷は、ブームや周りの構造物に当たるおそれがある
- 風がおさまったら、運転前に機械の各部を点検する
アンカウエイトの重さやブーム角度は、機種とブームの長さごとに表で決められています。必ず自分の機械の表を確認してください。


住友重機械建機クレーン(クローラクレーン)
住友重機械建機クレーン(旧・日立住友重機械建機クレーン)も、「セーフティー&メンテナンスガイド」で、クローラクレーンの強風時の休車姿勢を紹介しています。
- 瞬間風速が10m/sを超えたら作業を中止し、風速に応じた休車の処置をする
- 区分は、通常(10m/s以下)、強風(10〜16m/s、16〜30m/s)、暴風(30m/s超)
- ブーム仕様では、ブーム角度を60度(一部の大型機は70度)にして、カウンタウエイトを風上に向ける
- タワー仕様では、タワー角度やジブ角度を決められた位置にする
- アンカウエイトをとるときは、地切りさせない範囲で巻上ロープに張力をかける
- 台風などで30m/sを超えそうなときは事前に処置する
- 風がおさまったら、運転前に機械の各部を点検する
- 風速計がない場合は、平均風速に1.5〜1.7をかけて瞬間風速を見積もる
コベルコ建機と、区分の考え方や基本の姿勢はほぼ同じです。ただし、アンカウエイトの張力のかけ方や重さなど、細かな数値は会社や機種によって違います。
加藤製作所(ラフター・オールテレーン)
加藤製作所については、強風時の手順をまとめた資料を、ホームページ上の公開資料では見つけられませんでした。オールテレーンの仕様書では、風速計が安全装置のひとつとして挙げられています。
加藤製作所の機械を使う場合は、取扱説明書の強風時の項目を確認し、わからない点は販売店やサービス窓口に問い合わせてください。
4社の資料からわかる共通点
| 項目 | 共通している考え方 |
|---|---|
| 作業中止の目安 | 瞬間風速10m/s(法令の「平均10m/s」より厳しめ) |
| 風速の測り方 | できればブーム先端付近の風速計。ないときは予報の平均風速を割り増して考える |
| 止めたあと | ラフター・オールテレーンはブームを格納。クローラクレーンは決められた休車姿勢+必要に応じてアンカー |
| 台風 | 風が強くなる前にブームを下ろす・格納する |
| 風がやんだあと | 運転前に点検してから再開 |
ラフター・オールテレーンとクローラクレーンの違い
同じ「強風対策」でも、クレーンの種類によって考え方が変わります。
ラフター・オールテレーンは、テレスコピック(伸縮式)ブームを縮めて格納できるのが強みです。格納してしまえば、風を受ける面積も高さも大きく減ります。だからこそ、強くなる前に格納を終えることが何より大切です。
クローラクレーン、特にラチスブームの長いものは、ブームを簡単には地上に下ろせません。下ろすには、ブームを寝かせるだけの広さと時間が必要です。そのため、
- 風に対して決められた休車姿勢をとる
- 風が強くなればアンカウエイトで固定する
- 台風のような強い風が予想されるときは、前もってブームを地上に下ろす
という段階的な対応になります。テレスコブームのクローラクレーンは、取扱説明書に従ってブームを縮めるなどの対応をとります。
いずれも共通するのは、「風が強くなってから考える」では遅いということです。
それぞれのクレーンの特徴は「ラフター・オールテレーン・クローラの違い」で解説しています。

現場で使える強風対策チェックリスト
作業の前日・当日の朝
- 天気予報で平均風速だけでなく、最大瞬間風速(突風)を確認する
- 台風や低気圧の通過、午後から風が強まる予報がないか確認する
- 作業計画に、作業中止の基準(何m/sで止めるか)と、だれが中止を決めるかを書いておく
- 鉄板・型枠・パネル・ガラスなど、風を受けやすいつり荷がないか確認する
作業中
- 風速計(あればブーム先端付近のもの)を見る。ないときは吹流しや、木の枝・電線の揺れなどを目安にする
- 風を受けやすい荷には介錯ロープをつけ、つり荷の下や回転範囲に人が入らないようにする
- ブームを長く伸ばしているとき、高く吊っているときは、基準より早めに中止を判断する
- 突風で荷があおられたら、無理に旋回を続けず、荷を下ろせる位置で下ろす
中止を決めたら
- つり荷を下ろし、フックから外す
- ラフター・オールテレーンはブームを格納する
- クローラクレーンはメーカーが決めた休車姿勢をとり、必要ならアンカウエイトをとる
- レバーを中立・ロックし、ドラムロック・旋回ロックをかけてエンジンを止める
再開する前
- 風がおさまったことをしばらく様子を見て確認する(一瞬弱まっただけで再開しない)
- 運転前に、ブーム・ワイヤロープ・安全装置などに異常がないか点検する
強風のときは、雷や地盤のゆるみも重なりがちです。あわせて「クレーンの電波障害と雷」、「クローラクレーンの地盤傾斜とブーム横引き」もご覧ください。

まとめ
- 法令(クレーン則 第74条の3・第74条の4)では、強風で危険が予想されるときは作業中止、止めたあとも転倒を防ぐ措置が必要
- 「強風」は10分間の平均風速10m/s以上が目安。ただしメーカー各社は瞬間風速10m/sで作業中止を勧めている
- 風は高いところほど強く、瞬間風速は平均風速の1.5〜3倍になることもある
- ラフター・オールテレーンは早めにブームを格納、クローラクレーンは休車姿勢・アンカー・ブームを地上に下ろすの段階的な対応
- 台風が来るとわかっているときは、風が強くなる前に準備を終える
風は目に見えませんが、ブームの先ではいつも地上より強く吹いています。「まだ大丈夫」より「今のうちに」。早めの判断が、人と機械を守ります。
今日もご安全に。


コメント