ワイヤロープは、クレーンの中でいちばん「すり減っていく」部品のひとつです。荷を吊るたびにドラムに巻かれ、シーブ(滑車)の上で曲げ伸ばしされ、少しずつ傷んでいきます。
しかも、ワイヤロープが切れると荷はそのまま落ちます。だからこそ、どこまで傷んだら交換するのかが法令で細かく決められています。
この記事では、
- ワイヤロープのつくりと、点検に必要な用語
- 法令で決まっている4つの交換基準
- 点検のやり方(見る場所・直径の測り方・素線切れの数え方)
- 交換するときの流れ
- ロープを長持ちさせるコツ
を順に解説します。
※この記事は一般的な考え方を紹介するものです。ロープの種類や交換の手順は機種ごとに違います。実際の点検・交換は、必ずその機械の取扱説明書に従い、交換作業はメーカーの指定サービス工場などに相談してください。
ワイヤロープのつくり:素線・ストランド・心綱

ワイヤロープは、次の3つでできています。
| 部分 | どんなものか |
|---|---|
| 素線(そせん) | ロープを作っている細い鋼線。1本1本は髪の毛より少し太いくらい |
| ストランド | 素線を何十本もより合わせた「小なわ」。一般的なロープは6本のストランドでできている |
| 心綱(しんこう) | ロープの中心に入る芯。移動式クレーンの巻上げ・起伏用には、鋼線でできたロープ心(IWRC)がよく使われる |
点検でよく出てくるのが「1より(ひとより)」という言葉です。ストランドがロープのまわりをぐるっと1周する長さのことで、6本のストランドのロープなら、ロープの表面に並ぶストランドの山を6つ数えた長さが1よりです。
もうひとつ、フィラ線という言葉も出てきます。素線と素線のすき間を埋めるために入っている細い線で、ロープの強さを受け持つ主役ではないため、素線切れを数えるときは数に入れません。
法令で決まっている4つの交換基準
移動式クレーンのワイヤロープは、移動式クレーン構造規格 第41条で、次の状態でないことが求められています。つまり、どれかひとつでも当てはまったら交換です。
| 交換基準 | 内容 |
|---|---|
| ① 素線切れ | 1よりの間で、素線(フィラ線を除く)の数の10%以上が切れている |
| ② 直径の減少 | 直径の減少が公称径の7%を超えている |
| ③ キンク | ロープが折れ曲がってクセがついている(キンクしている) |
| ④ 形くずれ・腐食 | 著しい形くずれや腐食がある |
同じ4つの基準は、玉掛け用のワイヤロープについてもクレーン等安全規則 第215条で決められています。タダノの「ウインチ用ワイヤロープの点検について」でも、クレーン本体のウインチロープの交換基準として同じ内容が示されています。
あわせて、構造規格では次のことも決まっています。
- 安全率:巻上げ用とジブ(ブーム)の起伏用は4.5以上、伸縮用は3.55以上、支持用は3.75以上(ロープが切れる荷重を、かかる力の最大値で割った値)
- 捨て巻き:フックをいちばん下まで下ろしたときなどでも、ドラムに2巻き以上残る長さであること
安全率があるからといって「まだ余裕がある」と考えるのは危険です。素線切れや細りが進んだロープは、新品のときの強さをもう持っていません。


点検はいつやるか
| 点検 | タイミング | ワイヤロープについて |
|---|---|---|
| 作業開始前 | その日の作業を始める前 | 法令の点検項目は安全装置やブレーキが中心。ただしタダノの資料では、ワイヤロープも作業前に点検するよう案内している |
| 月例の定期自主検査 | 1か月以内ごとに1回 | ワイヤロープの損傷の有無が法令の検査項目(クレーン則 第77条) |
| 年次の定期自主検査 | 1年以内ごとに1回 | クレーン全体の検査の一部として確認 |
点検の周期や記録のしかたは、「移動式クレーンの点検は『見る』から始まる」でもまとめています。
点検のやり方

準備:ロープを「見える状態」にする
ドラムに巻かれたままでは、内側の層は見えません。点検するときは、
- 安全な場所でフックを地面近くまで下ろし、ロープをできるだけ繰り出す
- 油や泥で表面が見えないときは、ウエスで拭き取る
- 革手袋をはめる。素線が切れて飛び出していると、素手では手を切ります。手でロープをなでて確かめるのは危ないので、ウエスを軽く当てて引っかかりを見る方法が安全です
傷みやすい場所を重点的に見る
ロープは全体が同じように傷むわけではありません。特に次の場所をよく見ます。
| 場所 | 傷みやすい理由 |
|---|---|
| シーブを通る部分 | 曲げ伸ばしをくり返すため、素線切れが出やすい |
| ドラムの巻き始め・層が変わるところ | 上の層に押しつぶされたり、こすれたりする |
| 乱巻きになったところ | ロープ同士が食い込み、つぶれや形くずれの原因になる |
| 端末(くさびソケットやクランプの近く) | 曲がりと力が集中する。錆も出やすい |
| フックのそば・ブーム先端付近 | 雨水がたまりやすく、腐食が進みやすい |
| ふだんあまり動かない部分 | 動かないぶん油切れや錆に気づきにくい |

① 素線切れの数え方
- 切れた素線を見つけたら、そこを中心に1よりの長さ(ストランドの山6つ分)を決める
- その範囲の中で、切れている素線の本数を数える(フィラ線は数えない)
- ロープの素線の総数(フィラ線を除く)の10%と比べる
たとえば、フィラ線を除いた素線が全部で150本のロープなら、1よりの中で15本以上切れていたら交換です(数字は説明のための例です。素線の数はロープの構成によって違うので、ロープの仕様書やメーカーに確認してください)。
10%に届いていなくても、素線切れが1か所に集まっている、1本のストランドに偏っている、前回の点検から急に増えたといった場合は、早めの交換を検討しましょう。
② 直径の測り方
直径はノギスで測ります。ポイントは3つです。
- 外接円の直径を測る:ロープの断面は円に近い形なので、ストランドの山と山をはさむように当てます。山と谷をはさむと、実際より細く測れてしまいます
- 三方向から測って平均をとる:向きを変えて3回測り、その平均で判断します(タダノの資料でも案内されています)
- 公称径と比べる:公称径とは、ロープの仕様として表示されている太さのことです
計算例:公称径16mmのロープの場合
- 7% = 16mm × 0.07 = 1.12mm
- 16mm − 1.12mm = 14.88mm
測った平均が14.88mmより細ければ、直径の減少が7%を超えているので交換です。
新しいロープは、使い始めに少し細くなるのがふつうです。交換したときに一度測って記録しておくと、その後の細り具合を比べやすくなります。

③ キンクを見つける
キンクとは、ロープがループ状になったまま引っ張られて、折れ曲がったクセがついた状態です。一度キンクしたロープは、まっすぐに戻したように見えても強さが落ちているので、交換が必要です。
キンクは、新しいロープを取り付けるときの扱い方や、荷を急に下ろしてロープがたるんだときに起きやすくなります。
④ 形くずれ・腐食を見る
形くずれには、次のようなものがあります。
- かご状(バードケージ):ストランドがふくらんで、鳥かごのように広がる
- つぶれ:ドラムの乱巻きや、シーブから外れて挟まれたことでロープが平たくなる
- ストランドの浮き・心綱の飛び出し:ストランドがゆるんで浮いたり、中の心綱が外に出てきたりする
腐食は、表面の赤錆だけでなく、素線が錆でやせて細くなっているかどうかがポイントです。表面の油がなくなり、全体が赤茶色になっているロープは要注意です。
交換するときの流れ

ウインチロープの交換は、ドラムへの固定や巻き方、端末の処理を誤ると事故につながります。タダノも、メンテナンスは指定サービス工場に依頼するよう案内しています。ここでは、どんな流れで交換が行われるかを知っておくために、一般的な手順を紹介します。
1. 同じ仕様のロープを用意する
取扱説明書に書かれた直径・構成(ストランドや素線の組み方)・より方向・長さのロープを用意します。メーカー純正品を使うのが基本です。
特に、移動式クレーンの巻上げ用には、荷が回りにくい非自転性ロープが指定されていることがあります。見た目が似ていても、ちがう種類のロープに替えてはいけません。
2. 新しいロープの出し方に注意する
リールに巻かれたロープを取り出すときは、リールを回しながら繰り出します。リールを寝かせたまま上からロープを引き出すと、ロープがねじれてキンクの原因になります。

3. ドラムに固定し、張力をかけて巻く
- ロープの端をドラムの固定部(くさびやクランプ)に、向きを間違えずに取り付けます
- 1層目は、張力をかけながらすき間なくきっちり巻きます。1層目にすき間があると、その上の層がすき間に食い込み、乱巻きの原因になります
- フックをいちばん下まで下ろしてもドラムに2巻き以上残ることを確認します(移動式クレーン構造規格 第41条)

4. 端末を正しく処理する
ブーム先端やフック側の端末は、くさびソケットなどで固定します。構造規格(第22条)では、ワイヤロープとドラム・ジブ・フックブロックなどとの連結は、合金詰めソケット止め、クランプ止め、コッタ止めなどの方法で緊結(しっかり固定)することが決められています。
くさびソケットは、ロープの向き(力がかかる側)を間違えると抜けるおそれがあります。取扱説明書の図どおりに取り付けます。
5. ねじれを取り、なじませる
新しいロープは、取り付けた直後や重い荷を吊ったときに、よりが戻ろうとしてフックが回ることがあります。ねじれを直すときは、一度に大きく回さず、少しずつ直して確認します。
取り付けが終わったら、いきなり重い荷を吊らずに、軽めの荷で低速の巻上げ・巻下げを数回行い、ロープをなじませます(なじみ運転)。一般には定格荷重の半分程度で数回行う方法が紹介されています。
6. 交換したことを記録する
交換した日、ロープの仕様、交換したときの直径を記録しておきます。次の点検で「どれくらい細くなったか」を比べる基準になります。
ロープを長持ちさせるコツ
- 給油する:ロープの中まで油が行き渡っていると、素線同士のこすれや錆を防げます。表面が乾いてきたら、指定のロープ油を塗ります
- 乱巻きを防ぐ:荷を吊らずにロープを巻き取ると、張力が弱くゆるく巻かれ、次に荷を吊ったとき上の層が下の層に食い込みます。巻き取るときは軽い張力をかけるよう意識します
- シーブも点検する:シーブの溝がすり減っていたり、回りが悪かったりすると、ロープが一気に傷みます
- 急な巻下げ・急停止を避ける:ロープがたるんだあと一気に張ると、キンクや素線切れの原因になります
まとめ
- ワイヤロープは消耗品。素線切れ10%以上・直径の減少7%超・キンク・著しい形くずれや腐食のどれかで交換(移動式クレーン構造規格 第41条)
- 素線切れは1よりの範囲で数え、フィラ線は数えない
- 直径はノギスで外接円を三方向から測り、平均をとる
- 傷みやすいのは、シーブを通る部分、ドラムの層が変わるところ、端末、乱巻きした部分
- 交換は同じ仕様のロープで。ドラムへの固定や端末処理は誤ると危険なので、メーカーの指定サービス工場などに相談する
ワイヤロープは、毎日少しずつ見ていれば、変化に気づける部品です。点検のときは、ロープだけでなくシーブやドラムの状態もあわせて見てみてください。
吊り荷の重さと作業半径の関係は「定格総荷重表の読み方」で解説しています。


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