移動式クレーンの点検は「見る」から始まる|ワイヤロープ・油圧ホース・ホイールナットの交換サインとメーカー資料

移動式クレーンの目視点検(Crane-Info アイキャッチ) 点検・安全

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移動式クレーンの事故の多くは、ある日突然起きるように見えます。ところが、メーカーが公開している点検資料を読むと、「ワイヤロープの素線が切れかけていた」「ホイールナットのまわりに錆汁が出ていた」など、事前に目で見て気づけるサインがあったという事例がよく出てきます。

夕焼け空に浮かぶクローラクレーンのシルエット
Alan Jiang

この記事では、クレーンを運用している人が日ごろの点検で確認しておきたい「目視で分かる異常のサイン」をいくつか取り上げます。あわせて、国内のクレーンメーカー各社が公式サイトで公開している点検・安全の資料も紹介します。

※この記事は点検の考え方を紹介するものです。実際の点検・交換は、必ずその機械の取扱説明書・メンテナンスノートに従ってください。判断に迷う場合や整備が必要な場合は、メーカーの指定サービス工場に相談してください。

この記事で取り上げる5つの点検箇所(ラフターの例)

まずは法律で決まっている3つの点検

移動式クレーンの点検は、クレーン等安全規則(クレーン則)で次の3つが決められています。

点検の種類周期主な内容根拠
作業開始前の点検その日の作業を始める前巻過防止装置、過負荷警報装置などの警報装置、ブレーキ、クラッチ、コントローラーの機能クレーン則 第78条
月例の定期自主検査1か月以内ごとに1回安全装置・警報装置・ブレーキ・クラッチ、ワイヤロープとつりチェーン、フックなどのつり具、配線・コントローラーの異常の有無クレーン則 第77条
年次の定期自主検査1年以内ごとに1回クレーン全体の自主検査。原則として荷重試験も行うクレーン則 第76条

月例と年次の自主検査の結果は、記録して3年間保存することが義務づけられています(クレーン則 第79条)。

移動式クレーンの種類ごとの検査や、運転に必要な資格については、「クレーンの種類を地上・海上別に解説|荷重別の検査と必要な資格」で詳しく解説しています。

この記事で紹介する目視のポイントは、作業開始前や月例検査のときに「ついでに見ておく」と事故の予防につながるものです。

クレーン則で決まっている3つの点検

事例1:ワイヤロープの素線切れ・細り・キンク

ワイヤロープは消耗品です。使っているうちに素線(ロープを作っている細い鋼線)が切れたり、全体が細くなったりします。

目で見て分かる交換のサイン

次のどれかに当てはまったら、そのワイヤロープは交換です。

  • 素線切れ:ロープの「1より」(ストランドがひとまわりする長さ)の中で、素線の10%以上が切れている
  • 細り:直径が公称径より7%を超えて細くなっている
  • キンク:折れ曲がり、よじれがある
  • 形くずれ・腐食:つぶれ、ふくらみ、ひどい錆がある

この4つは、玉掛け用のワイヤロープについてクレーン則 第215条で使用禁止と決められている基準です。タダノの「ウインチ用ワイヤロープの点検について」でも、クレーン本体のウインチロープの交換基準として同じ内容が示されています。直径は、三方向から測った値の平均で判断するよう案内されています。

ワイヤロープの交換のサイン(素線切れ・直径の減少・キンク)

見落としやすい「小さなワイヤ」

メインのウインチロープだけでなく、細いワイヤも点検の対象です。コベルコ建機のクレーンニュース Vol.31 では、フックの過巻防止リミットスイッチにつながるウエイトつりロープが作業中に切れて、ウエイトが地上まで落ちた事例を紹介しています。ビニール被覆の破れや、両端のアイ部分の摩耗・素線切れを確認するよう呼びかけています。

メーカーの資料

事例2:油圧ホースのき裂・こすれ・油漏れ

クレーンのブームやアウトリガは油圧で動いています。油圧ホースが破れると、油が噴き出して作業が止まるだけでなく、ブームが急に下がるなどの危険もあります。

目で見て分かるサイン

タダノの「油圧ホースの点検・交換について」では、次の点を確認するよう案内しています。

  • ホースがほかの部品やホース同士でこすれていないか(干渉・摩耗)
  • つぶれ、き裂、ねじれがないか
  • 継ぎ目(接続部)が緩んでいないか、油がにじんでいないか
  • ホースを支えるクランプが変形・破損していないか
油圧ホースの点検箇所(こすれ・き裂・接続部・クランプ)

見た目に異常がなくても交換時期がある

油圧ホースは、見た目に異常がなくても、年数がたつと内側から劣化していきます。そのため多くの機種で、ホースは一定の年数ごとに交換する「定期交換部品」になっています。タダノの資料でも、ホースの場所ごとに2年、4年、5年といった交換区分が示されています。自分の機械のどのホースが何年ごとかは、取扱説明書やメンテナンスノートで確認してください。

メーカーの資料

事例3:ホイールナットの錆汁・ボルトの突き出し

ラフテレーンクレーン(ラフター)やオールテレーンクレーンは、公道を走る大型の車両でもあります。走行中にタイヤが外れれば、大事故になります。

目で見て分かるサイン

タダノの「ホイールボルト・ナットの定期点検について」では、車輪が外れる前には必ず予兆があるとして、次の点を確認するよう案内しています。

  • ボルトやナットが欠けていないか
  • ナットのまわりに錆汁(赤茶色の筋)が出ていないか
  • ナットから突き出たボルトの長さがそろっているか
  • ホイールに亀裂や変形がないか

錆汁やボルトの突き出し長さの違いは、ナットが緩んでいるサインのことがあります。

ホイールナットの緩みのサイン(錆汁・ボルトの突き出し)

タイヤを付け直したあとは増し締め

同じ資料では、ホイールを付け直したあとは走るうちにナットの締め付けが弱くなるため、50〜100kmほど走ったら規定のトルクで増し締めするよう案内しています。

メーカーの資料

事例4:ラジエータ・オイルクーラの目詰まり

エンジンを冷やすラジエータと、作動油を冷やすオイルクーラは、表面のすき間(コア)にホコリや砂がたまると冷えにくくなります。

コベルコ建機のクレーンニュース Vol.30 では、ラジエータやオイルクーラを毎月または100時間ごとに目で見て点検し、ホコリが詰まっていればエアで吹き飛ばして清掃するよう呼びかけています。放っておくと、エンジンのオーバーヒートや、作動油が熱くなってシールが傷み、油漏れにつながるおそれがあるとしています。砂ぼこりの多い現場や夏場は、特に早めの点検がすすめられています。

事例5:シリンダロッドの錆

ブームやアウトリガを動かす油圧シリンダのロッド(銀色に光る棒の部分)は、表面のめっきが錆びると、シールを傷めて油漏れの原因になります。

タダノの「シリンダロッドのめっき腐食防止について」では、融雪剤をまく地域や海の近くなど錆びやすい環境で使う場合に、めっき専用の保護スプレーを6か月ごとをめやすに使うようすすめています。ロッドに点々とした錆やくもりが出ていないか、ふだんから見ておきましょう。

ラジエータの目詰まりとシリンダロッドの錆

メーカー各社の点検・安全資料まとめ

ここで紹介した以外にも、各メーカーは点検や安全に関する資料を公式サイトで公開しています。自分が使っている機械のメーカーの資料は、一度目を通しておくと安心です。

メーカー資料特徴
タダノタダノサービス情報2005年からの技術資料(PDF)を機種別に掲載。ホース、ワイヤ、ボルトの点検など
コベルコ建機コベルコクレーンニュース点検・メンテナンスのコツをWeb記事で解説。写真つきで読みやすい
加藤製作所サービスニュース約95本の技術資料(PDF)。番号順・機種順で探せる
住友重機械建機クレーンセーフティ&メンテナンスガイドクローラクレーンの日常点検・定期点検・組立解体の注意を機種別に掲載
古河ユニック製品のメンテナンス・お客様サポート作動油やフィルタの交換周期の表と、作業開始前・月例・年次の点検表(PDF)を公開
前田製作所定期点検かにクレーンなどの法定点検の内容と点検項目を紹介

古河ユニックの点検表は、ユニッククレーンやミニ・クローラクレーンの作業開始前・月例・年次点検にそのまま使える形で配布されています。点検表を自作する前に、メーカーのものを確認してみるのもよいでしょう。

まとめ

  • 移動式クレーンには、作業開始前の点検・月例の自主検査・年次の自主検査が法律で決められている。自主検査の記録は3年間保存する
  • ワイヤロープは「1よりで素線10%以上の切れ」「直径7%を超える細り」「キンク」「著しい形くずれ・腐食」で交換
  • 油圧ホースは、こすれ・き裂・油のにじみを確認。見た目に異常がなくても定期交換の時期がある
  • ホイールナットは、錆汁やボルトの突き出し長さの違いが緩みのサイン。付け直したら増し締め
  • ラジエータ・オイルクーラの目詰まりやシリンダロッドの錆も、目で見て早めに気づける
  • メーカー各社が公開している点検資料を一度読んでおく

異常に気づいたら、無理に作業を続けず、メーカーの指定サービス工場に相談してください。

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