「ラフターならアウトリガーで水平を出せるけど、クローラはそうはいかない」。クローラクレーンを扱う現場では、よく聞く言葉です。
ラフテレーンクレーン(ラフター)は、アウトリガーの脚の長さを調整して、多少傾いた地面の上でも機体を水平にできます。一方、クローラクレーンはキャタピラ(クローラ)をそのまま地面に置いて作業するため、地面の傾きが、そのまま機体の傾きになります。
機体が傾いた状態で荷を吊ると、ブームには本来想定していない横向きの力(横引き)がかかります。ブームは横からの力にとても弱い構造なので、わずかな傾きでも強度が大きく下がり、最悪の場合はブームの座屈(折れ曲がり)や転倒につながります。
この記事では、
- クローラクレーンが地盤の傾きに弱い理由
- 傾いた機体でブームに横引きがかかるしくみ(計算例つき)
- ブームが横からの力に弱い理由
- 据え付け前と作業中にできる対策
を順に解説します。
※この記事は考え方を紹介するものです。許される傾きの大きさや作業の条件は、機種ごとに違います。実際の作業は、必ずその機械の取扱説明書と定格総荷重表、現場の作業計画に従ってください。
ラフターとクローラクレーンの違い:水平を「出せる」か「作る」か
| ラフテレーンクレーン(ラフター) | クローラクレーン | |
|---|---|---|
| 機体の支え方 | アウトリガー(4本の脚)で車体を持ち上げて支える | クローラ(キャタピラ)を地面に直接置いて支える |
| 水平の出し方 | アウトリガーの脚の長さを個別に調整して、機械側で水平を出す | 機械側では調整できない。地面のほうを水平にする(整地・敷鉄板) |
| 傾斜の影響 | 調整できる範囲内なら、ほとんど受けない | 地面の傾きが、そのまま機体の傾きになる |
ラフターの荷重表とアウトリガーの関係は、「定格総荷重表の読み方」で紹介しています。
クローラクレーンは、接地面が広く、吊ったまま走行できるなど、ラフターにはない強みがあります。その代わり、水平は機械ではなく地盤づくりで確保するのが前提です。

メーカーは「水平堅土」を前提にしている
国内メーカーのクローラクレーンのカタログ(仕様書)では、定格総荷重表の注意書きに、ほぼ必ず次のような一文があります。
定格総荷重表の値は、水平堅土上での値です。
「水平堅土(すいへいけんど)」とは、水平で、十分にかたい地面のことです。荷重表に書かれた数字は、この条件がそろって初めて成り立ちます。
では「水平」とはどのくらいか。具体的な数値は機種ごとの取扱説明書で決められていて、カタログには載っていないことが多いのですが、一般には傾き0.5度程度(勾配1%程度)以内が目安とされています。たとえば海外大手メーカーのマニトワックは、クローラクレーンの資料で、作業時は1%以内に水平を出すこと、吊ったまま走行するときの地面の勾配は1%(0.5度)以内とすることを求めています。
勾配1%とは、1m進むと1cm下がるくらいの傾きです。人の目ではまず分からない程度で、「見た目は平らだから大丈夫」は通用しません。
自分の機械で許される傾きは、必ず取扱説明書で確認してください。機種や作業条件によって、さらに厳しい値が決められていることがあります。
厚生労働省のサイトに掲載されている小型移動式クレーンの教材でも、傾斜地や軟弱地では盤木や敷板などで補強し、機体を水平に設置しなければならないと書かれています。また、クレーン等安全規則 第70条の3では、地盤が軟弱などで転倒のおそれがある場所では、鉄板を敷くなどの対策をしない限り、移動式クレーンで作業してはならないとしています。
傾いた機体で荷を吊るとどうなるか

荷を吊ったワイヤロープは、機体が傾いていても、重力に引かれて真下(鉛直)に垂れ下がります。ところがブームは機体と一緒に傾いています。この「ずれ」が問題の始まりです。
ブームを横向きにすると「横引き」になる
機体が左右方向に傾いた状態を考えます。ブームを傾きの方向(斜面の下り側や上り側)とは直角の向きに向けると、ブームを含む面そのものが傾くため、真下に垂れた吊り荷は、ブームから見ると横へ引っぱっていることになります。
この横向きの力は、おおよそ
横向きの力 = 吊り荷の重さ × sin(傾きの角度)
で表せます。
| 機体の傾き | 横向きの力(吊り荷の重さに対する割合) | 10tを吊ったとき |
|---|---|---|
| 0.5度 | 約0.9% | 約87kg |
| 1度 | 約1.7% | 約175kg |
| 2度 | 約3.5% | 約350kg |
| 3度 | 約5.2% | 約520kg |
| 5度 | 約8.7% | 約870kg |
※計算上の目安です。実際にはブーム自体の重さにも同じ割合の横向きの力がかかり、さらに旋回の止め方や風、荷の揺れによる力が加わります。
「10tに対して175kgなら小さい」と思うかもしれません。しかし、この力は長いブームの先端にかかります。ブームが長ければ長いほど、根元にかかる横曲げの力(モーメント)はてこの原理で大きくなります。

ブームを斜面の下り側へ向けると、作業半径が広がる
ブームを斜面の下り側に向けると、今度はブームの先端が前へ倒れ込む形になり、作業半径が大きくなります。
作業半径が大きくなる量は、おおよそ「ブーム先端の高さ × sin(傾きの角度)」です。
| 機体の傾き | ブーム先端の高さが40mのとき、作業半径が広がる量 |
|---|---|
| 0.5度 | 約0.35m |
| 1度 | 約0.7m |
| 3度 | 約2.1m |
※計算上の目安です。
荷重表の作業半径は1m〜数mきざみで定格総荷重が変わります。作業半径が知らないうちに1〜2m広がれば、荷重表の上では余裕のある作業でも、実際には定格を超えていることがありえます。

旋回すると、条件が刻々と変わる
傾いた機体で旋回すると、ブームの向きが変わるたびに、
- 下り側を向いたとき:作業半径が広がり、転倒の方向に近づく
- 横を向いたとき:ブームに横引きがかかる
- 上り側を向いたとき:作業半径は縮むが、荷を下ろしたあとは後方への安定が悪くなる
と、条件が次々に入れかわります。また、傾いた機体では、上部旋回体が自分の重さで下り側へ回ろうとするため、旋回の止め方が急だと荷が大きく振れ、さらに横向きの力が加わります。

ブームはなぜ横からの力に弱いのか

クローラクレーンのラチスブーム(格子状に組んだブーム)は、ブームの長さ方向に押す力と、ブームを起こし伏せする方向(上下方向)の曲げに耐えるように作られています。
上下方向については、ブームの先端をワイヤロープ(ペンダントロープやブーム起伏ロープ)が後ろから引っぱって支えているため、長いブームでも大きな荷を吊ることができます。
ところが、横方向にはこうした支えがありません。横から力を受けたとき、ブームは根元のピンだけで支えられた、長い片持ちの棒と同じ状態になります。
- 長いブームほど、先端の小さな横向きの力が、根元で大きな曲げの力になる
- 横に曲げられると、ブームを長さ方向に押している大きな力と組み合わさって、座屈(ぐにゃりと折れ曲がる現象)が起きやすくなる
- ラチスブームの細い斜材や、ブームのつなぎ目のピン・ブラケットに、想定外の力が集中する
このため、メーカーや安全教育の資料では、横引き・斜めづりを禁止しています。前述の厚生労働省サイト掲載の教材でも、「地切り前の荷の横引き、斜めつりをしてはならない」と明記されています。機体の傾きは、オペレーターが横引きをしているつもりがなくても、横引きと同じ状態を作ってしまう点が怖いところです。
定格総荷重表の数字のうち、作業半径が小さい側の値は、多くの場合ブームなど機械の強度で決まっています(大きい側は転倒に対する安定度で決まります)。強度で決まる範囲では、過負荷防止装置が「まだ余裕あり」と表示していても、横向きの力によってブームの強度が先に足りなくなるおそれがあります。

過負荷防止装置は横引きを見ていない
過負荷防止装置(モーメントリミッタ)は、一般に、吊り荷の重さとブームの長さ・角度から作業半径を求め、荷重表と比べて警報や停止を行います。
多くの装置は、機体の傾きや、ブームにかかる横向きの力を前提にしていません。つまり、傾いた機体で横引きがかかっていても、表示上は「定格の80%」のように余裕があるように見えることがあります。過負荷防止装置の表示は、水平堅土の条件がそろっていてこそ信用できる、と考えてください。
据え付け前にやること

1. 地盤を確かめ、整地する
- 作業計画の段階で、据え付け場所の地盤の強さと傾きを確認する。埋め戻した場所、雨のあとの地面、法肩(のりかた:盛り土や切り土の斜面の上端)の近くは特に注意
- 傾きがある場合は、整地して平らにしてから据える。「クローラの下に何かかませて水平にする」のは、支えが不安定になるので、取扱説明書で認められた方法以外は行わない
- 軟らかい地盤は、敷鉄板などで荷重を分散する(クレーン則 第70条の3)
2. 水平を「測る」
- 運転室の水準器(傾斜計)や、レベル(測量機器)で、機体が許される傾きの範囲内かを確かめる
- 勾配1%(約0.5度)は目では分からないため、必ず計器で確認する
- 敷鉄板の上でも、鉄板の下の地盤が傾いていたり、沈んだりしていれば同じこと。鉄板を敷いたあとにも測る
ブーム角度計を使った簡単な測り方
水準器がない、または目盛りが粗くて細かい傾きが読めないときは、クレーンに付いているブーム角度計を使って傾きを測る方法があります。ブーム角度計は過負荷防止装置が作業半径を計算するための計器なので、精度が高く、0.1度単位で読めるものも多くあります。
やり方は次のとおりです。
- 荷を吊らない状態で、ブームを起こしたまま止める(測定中はブームの起伏操作をしない)
- いまブームが向いている方向(たとえば前)で、ブーム角度の表示をメモする
- 90度ずつ旋回して、右・後ろ・左の向きでも、それぞれブーム角度をメモする
- 向かい合う2方向の差の半分が、その方向の傾きになる。角度が小さく出た向きのほうが下がっている
ブームの起伏を動かしていなければ、ブームと機体の角度は変わりません。それなのに向きによって表示が変わるのは、機体そのものが傾いているからです。たとえばブームを下がっている側へ向けると、ブームは前へ倒れ込む形になり、角度計の表示はその分小さくなります。
| 向き | ブーム角度の表示 | 読み取り |
|---|---|---|
| 前向き | 58度 | 前後の差は2度 → 前に1度下がっている |
| 後ろ向き | 60度 | |
| 左向き | 61度 | 左右の差は1度 → 左が0.5度上がっている |
| 右向き | 60度 |
※例として作った数値です。
この例では、左右の傾き(0.5度)は許容範囲内ですが、前後に1度傾いています。この場合は、クローラの前側に鉄板を1枚引き込んで前側を持ち上げれば、前下がりを軽くできます。鉄板を入れたら、同じ方法でもう一度測り、前後・左右とも許容範囲に入ったことを確かめてから作業に入りましょう。
この方法で分かるのは、あくまで機体の傾きの目安です。許される傾きの大きさと、傾きの確認方法は、その機械の取扱説明書に従ってください。旋回するときは、周囲に人や障害物がないことを確かめてから行います。

3. 吊り荷の真上にブームの先端を合わせる
- 地切りの前に、フックが吊り荷の重心の真上にくるようにする
- 斜めに引っぱった状態で地切りすると、荷が振れてブームに横向きの力がかかり、周りの作業者にも当たる

作業中に気をつけること
- 地盤の沈下に注意する。重い荷を吊って旋回すると、片側のクローラにだけ大きな重さがかかり、地盤が沈んで機体が傾くことがある。作業の途中でも水準器を確認する
- 雨のあと、作業を再開する前にも水平を確認する。地盤が軟らかくなって沈みやすくなっている
- 旋回はゆっくり始め、ゆっくり止める。急な旋回や停止は荷を振らせ、ブームに横向きの力を加える
- 風も横向きの力になる。吊り荷の面積が大きいときは特に注意し、強風時は作業を中止する
- 吊ったまま走行するときは、取扱説明書で決められた地面の条件(勾配・かたさ)と、走行時の荷重表・ブームの向きを必ず守る
- 「なんとなく傾いている」「荷が片側へ振れたがる」と感じたら、いったん荷を下ろして、水平を確認し直す
まとめ
- ラフターはアウトリガーで水平を出せるが、クローラクレーンは地面の傾きがそのまま機体の傾きになる。水平は地盤づくりで確保する
- 荷重表は水平堅土が前提。許される傾きは機種ごとに取扱説明書で決められており、一般には0.5度(勾配1%)程度以内が目安。目では分からないので計器で測る
- 傾いた機体で荷を吊ると、ブームに横引きがかかる。1度の傾きで吊り荷の重さの約1.7%が、長いブームの先端に横から加わる
- ブームを下り側に向けると作業半径が広がり、荷重表の上では余裕があっても実際は定格超えになりうる
- ブームは横方向の支えがなく、横からの力に弱い。横引きは強度を大きく下げ、座屈や転倒につながる。過負荷防止装置は横引きを見ていない
- 据え付け前の整地・敷鉄板・水平確認と、作業中の沈下チェック・ゆっくりした旋回で防ぐ


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