クレーンの電波障害と雷|放送所の近くでフックが「ビリッ」とくる理由と、誘導雷・落雷の危険と故障

クレーンの電波障害と雷(Crane-Info アイキャッチ) 点検・安全

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「この現場、フックを触るとビリッとくる」。AMラジオの送信所の近くで作業したことのあるクレーンオペレーターや玉掛け作業者から、ときどき聞く話です。

また、夏の夕立のあとに「クレーンの過負荷防止装置が起動しなくなった」「表示器がおかしい」というトラブルもあります。原因の多くは、クレーンに雷が直接落ちたことではなく、近くの落雷で配線に入り込んだ電気(誘導雷)です。

この記事では、クレーンが電波や雷から受ける影響を、次の3つに分けて解説します。

  1. 放送所の電波によってクレーンに電圧が出る「電波障害」
  2. 近くの落雷で電装品が壊れる「誘導雷」
  3. 数は少ないものの、当たれば命に関わる「直撃雷」

※この記事は現場での考え方を紹介するものです。実際の作業判断は、その機械の取扱説明書と、現場の作業計画・安全ルールに従ってください。

クレーンは大きな「アンテナ」になる

青空と入道雲を背景に、斜め上に高く伸びた移動式クレーンのブームとワイヤロープ

ラジオやテレビの電波は、空中を飛んでいるあいだ、まわりの金属に電気を起こします。アンテナはこの性質を利用して電波を受け取る道具です。

移動式クレーンは、長い鋼製のブームとジブ、そこから垂れ下がるワイヤロープとフックでできています。形だけ見ると、巨大な受信アンテナとほとんど同じです。

なぜAMラジオの送信所が問題になるのか

アンテナは、長さが電波の波長の「4分の1」に近いときに、いちばん強く電気を起こします(共振)。

日本のAMラジオ(中波放送)の周波数は 531〜1602kHz で、波長にするとおよそ190〜560mです。その4分の1は約47〜140mになります。

これは、大型のクローラクレーンのブーム+ジブの長さや、ラフテレーンクレーンのブームにワイヤロープを加えた長さと、ちょうど重なる範囲です。テレビやFMの電波は波長がずっと短いため、クレーン全体が共振する組み合わせにはなりにくく、問題になりやすいのは主にAMラジオの送信所の近くです。

クレーンのブームとワイヤロープがAMラジオの電波のアンテナになるしくみ

研究で測られたフックの電圧

独立行政法人 産業安全研究所(現・労働安全衛生総合研究所)の冨田一氏による研究報告「中波放送波による大型クレーンへの電磁妨害と対策の一検討」(2003年)では、中波の送信所の近くで実際のクレーンを使って測定しています。

機種フックに出た電圧(ピーク値)
7tラフテレーンクレーン約40V
25tラフテレーンクレーン約75V
50tラフテレーンクレーン約1,065V

※954kHzの中波、電界強度 0.79V/m の場所での測定。報告書の値をもとに作成。

小さなクレーンではたいした電圧にならなくても、ブームが長い大型機になると一気に1,000Vを超えることが分かります。報告書は、この電圧が作業者の電撃(感電)の原因になること、さらにブームに流れる電流で過負荷防止装置が誤作動する問題があることも指摘しています。

研究の中では、アウトリガーフロートの下に絶縁板を入れる方法や、フックに接地線を追加する方法を試し、フックの電圧がおよそ半分に下がったことも報告されています。ただし、これは研究段階での試験結果です。現場で同じことをする場合は、メーカーや専門家に相談してください。

中波送信所の近くで測られたフックの電圧(7t・25t・50tラフター)

電波障害で起きること

  • 玉掛け作業者がフックやワイヤに触れたとき、ビリッとくる。驚いて手を離したり、足場から体勢を崩したりすると、二次災害につながります
  • やけどのような傷ができることがある
  • 過負荷防止装置などの電子機器が誤作動する。表示がおかしくなったり、警報が鳴ったりする

現場でできる対策

  • 作業の計画段階で、近くにAMラジオの送信所がないか調べる。送信所の位置は、総務省の「無線局等情報検索」や各放送局の公式サイトで確認できます。送信所は大きな鉄塔のアンテナが目印です
  • 送信所の近くでブームの長い大型機を使う場合は、クレーンのメーカーやレンタル会社に事前に相談する
  • 玉掛けのときは、つり荷やフックに直接触れる時間を短くし、介錯ロープ(かいしゃくロープ)を使って荷を誘導する
  • 作業中に過負荷防止装置の表示がおかしいと感じたら、そのまま作業を続けない

電気を起こすのは電波だけではありません。高圧の送電線の近くでも、ブームに誘導電流が流れることがあります。送電線の近くでは、電圧ごとの離隔距離を守ることが基本です。旧労働省の通達(昭和50年 基発第759号)では、低圧で1m、高圧で1.2m、特別高圧で2m(60,000V以上は10,000Vまたはその端数を増すごとに20cm増し)が目安とされています。

送電線の近くでの離隔距離の目安

雷の被害で多いのは「誘導雷」

山並みのシルエットの上空で、雲の中を横に走る稲妻

雷の被害には、大きく分けて2種類あります。

種類どんな現象かクレーンへの影響
直撃雷雷がクレーンや建物に直接落ちる作業員の死傷、電装品の大きな損傷
誘導雷近くに落ちた雷の電気が、電線や配線に電圧(雷サージ)を起こして入り込む過負荷防止装置、エンジンの制御装置、表示器などの故障

農林水産省の「機械設備指針」の雷害対策の章では、誘導雷を「雷雲の電荷によって電源線、通信線などに電荷を誘導する現象」と「落雷時の放電電流による電磁誘導によって電源線、通信線などに電圧を誘導する現象」の総称と説明しています。建物に雷が落ちなくても、引き込まれた電線を伝って雷サージが入り込み、中の機器を壊すことがあるとされています。

クレーンは誘導雷の影響を受けやすい

現在の移動式クレーンには、たくさんの電子機器が載っています。

  • 過負荷防止装置(モーメントリミッター)と、その表示器
  • ブームの長さや角度を測るセンサー
  • エンジンや油圧を制御するコンピューター
  • 無線機やラジコン(リモコン)の受信機

これらは、ブームの先端から運転室まで長い配線でつながっています。長い配線ほど、近くの落雷から電圧を拾いやすくなります。ブームを伸ばしたまま、雷雲の下で待機しているクレーンは、誘導雷を受ける条件がそろっている状態です。

直撃でなくても、近くの雷で電装品が壊れることは珍しくありません。被害の件数としては直撃雷よりこちらのほうがずっと多いと言われ、修理費や作業の中断という形で、じわじわと効いてきます。

近くの落雷で電装品が壊れる誘導雷のしくみ

雷が近くに落ちたあとのチェック

雷がおさまったあと、作業を再開する前には次の点を確かめましょう。

  • 過負荷防止装置が正常に起動し、警報や停止の機能が働くか
  • ブームの長さ・角度・作業半径の表示が、実際の状態と合っているか
  • 巻過防止装置の警報が働くか
  • 表示器にエラーが出ていないか
  • 無線機やラジコンが正常に動くか

過負荷防止装置や巻過防止装置などの機能確認は、もともと作業開始前の点検として法律で決められている項目です(クレーン等安全規則 第78条)。雷のあとは、その日の朝に点検を済ませていても、もう一度確認するのがおすすめです。点検の全体像は「移動式クレーンの点検は『見る』から始まる」で紹介しています。

異常が出たら、自己判断でリセットしてそのまま作業しないでください。過負荷防止装置が正しく働かない状態でのつり作業は、転倒事故に直結します。メーカーの指定サービス工場に連絡しましょう。

直撃雷は少ないが、当たれば命に関わる

広い緑の畑の上に、暗い雷雲が低く垂れ込めている様子

ブームを高く伸ばしたクレーンは、周囲でいちばん高い金属の柱になります。直撃は誘導雷に比べればまれですが、起きたときの危険は桁違いです。

危ないのは、運転室の中にいるオペレーターよりも、クレーンのまわりにいる人です。

  • 玉掛け作業者がフックやつり荷、介錯ロープに触れていると、雷の電流が体を通るおそれがある
  • クレーンに雷が落ちると、雷の電流がアウトリガーやクローラから地面に広がり、近くに立っている人の足から足へ電気が流れることがある
  • ブームや鉄塔のすぐそばにいると、そこから人へ雷が飛び移る「側撃」を受けることがある
直撃雷でクレーンのまわりの人が危ない3つの理由

雷が近づいたら:作業中止と退避の目安

気象庁は「雷から身を守るには」の中で、次のような目安を示しています。

  • 雷鳴が聞こえるなど、雷雲が近づく様子があるときは、落雷が差し迫っている
  • 鉄筋コンクリートの建物や、屋根のある自動車・バス・列車の中は比較的安全
  • 電柱や鉄塔など高い物体の近くでは、てっぺんを45度以上の角度で見上げる範囲で、その物体から4m以上離れた場所に退避する
  • 雷の活動がやんでから20分以上たってから、安全な場所から移動する

これをクレーン作業に当てはめると、次のような流れになります。

  1. 雷注意報や雷鳴、空の様子で雷雲の接近に気づいたら、新しいつり作業を始めない
  2. つっている荷は、安全な場所に下ろす
  3. 時間があればブームを縮めて格納する(高さと配線の長さを減らす)
  4. 玉掛け作業者や合図者はクレーンから離れ、建物の中や屋根のある車の中に避難する
  5. 最後の雷鳴から20分以上たってから作業を再開し、再開前に上のチェックを行う

国土交通省の「土木工事安全施工技術指針」でも、警報器やラジオなどで雷雲の発生や接近の情報を入手したときは、拡声器やサイレンなどで現場の作業員に伝えるよう求めています。誰がいつ作業中止を判断するのかを、朝礼や作業計画の段階で決めておくと迷わずに済みます。

雷が近づいたときの退避の目安と作業の流れ

まとめ

  • 移動式クレーンは、形が大きな受信アンテナと同じ。AMラジオの送信所の近くでは、フックに高い電圧が出ることがある
  • 研究では、50tラフテレーンクレーンのフックで約1,000Vを測定。小型機より大型機のほうが影響を受けやすい
  • 電波の影響で感電(ビリッ)や過負荷防止装置の誤作動が起きる。計画段階で送信所の位置を調べ、メーカーやレンタル会社に相談する
  • 雷の被害で多いのは、近くの落雷で配線に電気が入る誘導雷。過負荷防止装置などの電装品が壊れやすい
  • 雷のあとは、作業開始前点検と同じ項目をもう一度確認する。異常があれば作業しない
  • 直撃雷は少ないが、まわりの作業員の命に関わる。雷鳴が聞こえたら荷を下ろし、クレーンから離れて避難。再開は最後の雷鳴から20分以上あとに

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