前回の記事「中国クレーンメーカーは日本に来るのか?」では、中国の大手3社は日本法人を持っているのに、日本の現場で中国製の移動式クレーンはまだほとんど見かけない、という話をしました。
では、ドイツや米国など欧米のクレーンメーカーはどうでしょうか。
結論からいうと、欧米勢はすでに日本で実際に使われています。しかも、その一部はいまや日本メーカーの製品として売られています。
この記事では、
- 日本で走っている台数の手がかり
- メーカーごとの「日本での売られ方」(リープヘル/旧デマーグ・ファウン/グローブ/テレックス)
- 日本と欧米メーカーの提携・買収の歴史
- 中国勢との違いと、これから
の順に見ていきます。
※この記事の情報は2026年10月時点のものです。機種名と能力値は各社の公式発表に載っている値で、実際の作業能力は条件によって大きく変わります。
日本で走っている台数の手がかり
海外製のクレーンが日本で何台使われているかは、まとまった統計が見つかりません。そこで手がかりになるのが、国土交通省のリコール届出です。
オールテレーンクレーンは公道を走るので、自動車と同じようにナンバーを取ります。不具合が見つかれば、輸入した会社が国にリコールを届け出ます。届出には対象の機種と台数が載ります。
リープヘル・ジャパンが出した届出を見てみると、次のようになっています。
| 届出日 | 対象機種 | 台数 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 2020年2月26日 | LTM11200NX、LTM1550N、LTM1220NX-2 | 9台 | 車軸のナックル(かじ取りの部品)に亀裂が入るおそれ |
| 2021年9月10日 | LTM1075NX〜LTM1700NX の9機種+MK88 | 108台 | 夜間に速度計の単位表示が読めない |
2021年の届出は、ある期間に作られた機械だけが対象です。それでも75t級から700t級まで、少なくとも108台のリープヘル製クレーンが日本で登録されていることになります。実際に国内にある台数は、これより多いはずです。
型式の末尾に付いている N や NX は、日本向けの仕様を表す記号とみられます。海外の機械をそのまま持ってくるのではなく、日本の道路や基準に合わせた「日本仕様」を作っていることがうかがえます。
なお、MK88は「モバイル建設クレーン」と呼ばれる機種で、トラックの上にタワークレーンのようなブームを載せた機械です。
メーカーごとの「日本での売られ方」
欧米メーカーのクレーンが日本に入ってくる道すじは、メーカーによってかなり違います。

リープヘル(ドイツ):40年以上前から日本法人
リープヘルは、超大型のオールテレーンやクローラクレーンで世界トップクラスのメーカーです。日本では1983年に、日本のパートナー企業と一緒に「日本リープヘル」を作りました。1991年からはリープヘルの100%子会社「リープヘル・ジャパン」になり、本社は横浜市にあります。
横浜の本社では、オールテレーン、クローラクレーン、モバイル建設クレーンの販売・サービス・部品供給をしています。
日本での導入例として、公式発表に出てくるものを2つ紹介します。
- 株式会社山形:1,200t級のオールテレーン「LTM 11200-9.1」を2014年に導入。この機種の世界50台目で、日本では5台目でした。9軸の巨大な機械で、テレスコブームだけで100mあります。
- 電材(Denzai):1,350t級のクローラクレーン「LR 11350」を保有しているほか、2024年に2,500t級の「LR 12500-1.0」を、日本・アジア太平洋で初めて導入しました。
国内メーカーのクローラクレーンの最大機はコベルコ建機の1,250t級です。それより大きな機械が必要な場面では、リープヘルのような海外機の出番になります。くわしくは「クローラクレーンの歴史と最大機種」をどうぞ。
旧デマーグ・ファウン(ドイツ):いまは「タダノ」
デマーグは、ドイツの老舗クレーンメーカーです。オールテレーンの元祖ともいえる存在で、「ホイールクレーンの歴史と最大機種」でも紹介したように、1950年代のデマーグの機械が最初のオールテレーンとされています。
このデマーグを、2019年にタダノが買収しました。それまでの持ち主は米国のテレックスです。タダノは1990年にも、同じドイツのファウンのクレーン部門を買収しています。
そして2021年、タダノはデマーグのブランド名をやめて「タダノ」に統一しました。型式も次のように変わっています。
| 以前の型式 | 新しい型式 | 意味 |
|---|---|---|
| AC 450-7 | AC 7.450-1 | 7軸・450t・1世代目 |
| CC 3800-1 | CC 38.650-1 | CC38シリーズ・650t・1世代目 |
同時にタダノは、ドイツ生まれのオールテレーンとラチスブームのクローラクレーンを、日本でもっと売っていくと表明しました。実際に、日独共同開発のオールテレーンが次々と日本で発売されています。
| 発売 | 機種 | 能力 | 価格(税別・標準仕様) |
|---|---|---|---|
| 2023年8月 | AC 6.300-1 | 300t、ブーム80.0m | ― |
| 2024年9月 | AC 7.450-1 | 450t、ブーム79.9m(日本向け初の450t級) | 7億4,000万円 |
| 2026年4月 | AC 5.250-2 | 250t、ブーム70m | 4億3,000万円〜 |
つまり旧デマーグは、「欧米メーカーが日本に進出してきた」というより、日本メーカーが欧州メーカーを買って、その技術を日本に持ち帰った例です。
買収の少し前、2019年1月には、黒川重機がデマーグの「AC 130-5」(日本名 AC 150-5J)を日本で初めて導入しています。ここにも日本向けを表す「J」が付いています。
グローブ(米マニトワック):コベルコの看板から、専門代理店へ
グローブは、米国マニトワックのオールテレーンのブランドです。オールテレーンはドイツのヴィルヘルムスハーフェン工場で作られています。
日本での売られ方は、時期によって大きく変わりました。
- 2003〜2018年:コベルコブランドで販売
マニトワックとコベルコは、お互いの製品を相手のブランドで売る提携(OEM)を結びました。グローブのオールテレーンは「コベルコ KMGシリーズ」として日本で売られ、たとえば300t級のKMG6300は、グローブのGMK6300Lがもとになっています。逆にコベルコは、150t未満のラチスブームのクローラクレーンをマニトワックの名前で世界に出していました。この提携は2018年11月に終わっています。 - 2021年〜:ジーマシナリーが日本代理店に
東京のジーマシナリー(G Machinery)がグローブのオールテレーン全機種の日本代理店になりました。最初の2台は国内の大手クレーンレンタル会社向けで、150t級の GMK5150L-1J と250t級の GMK5250XL-1J。末尾の「J」は日本市場向けの仕様という意味です。
ちなみにマニトワック本体の大型クローラクレーンは、日本で販売・稼働しているという公開情報は見つかりませんでした。
テレックス(米国):大型の移動式クレーンからは撤退
テレックスは、2019年にデマーグをタダノへ売ったのにあわせて、大型の移動式クレーンから手を引きました。いまはイタリア製のラフテレーンクレーンやタワークレーンなどが中心で、日本で目立つ現行の移動式クレーンはありません。テレックス時代のデマーグ機は、いまはタダノがサービスしています。
そのほかのメーカー
- ゼネボーゲン(ドイツ):日本の代理店を通じて、木材リサイクル会社などにマテリアルハンドラー(荷役機械)を納めています。ただし日本では移動式クレーンではなく、建設機械として扱われるのが普通です。
- ベッカー(ドイツ):2010年から日本ケーブルが日本代理店です。日本で報じられているのは荷揚げ機で、移動式クレーンの実績は確認できませんでした。
日本と欧米メーカーの提携・買収の歴史
ここまでの話を年表にすると、日本メーカーと欧米メーカーがライバルであると同時に、組んだり買ったりしてきたことが分かります。

| 年 | できごと |
|---|---|
| 1983年 | リープヘルが日本法人(日本リープヘル)を設立 |
| 1990年 | タダノがドイツ・ファウンのクレーン部門を買収 |
| 1991年 | リープヘル・ジャパンがリープヘルの100%子会社に |
| 2003年 | コベルコとマニトワックが相互OEMの提携(グローブ→コベルコ KMG) |
| 2014年 | 山形が1,200t級 LTM 11200-9.1 を導入(日本で5台目) |
| 2018年 | コベルコとマニトワックの提携が終了 |
| 2019年 | タダノがテレックスからデマーグを買収 |
| 2021年 | タダノがデマーグのブランドを廃止/ジーマシナリーがグローブの日本代理店に |
| 2023〜2026年 | タダノが日独共同開発のオールテレーン(300t・450t・250t)を日本で発売 |
| 2024年 | 電材が2,500t級クローラ LR 12500-1.0 を導入 |
中国勢との違い
前回の中国編とくらべると、違いがはっきりします。
| 欧米勢 | 中国勢 | |
|---|---|---|
| 日本での拠点 | リープヘルは1983年から日本法人。グローブは代理店経由 | 3社とも日本法人あり(徐工日本は2024年設立) |
| 日本仕様の機種 | あり(N・NX、J、コベルコKMGなど) | 公開情報では確認できない |
| 日本での稼働 | 確認できる(リコール届出で108台など) | 公開情報では確認できない |
| 得意な分野 | 超大型のオールテレーン・クローラ | 同じ分野+電動クローラ、短納期 |
| ラフター | なし | なし |
| 国内メーカーとの関係 | 提携や買収で取り込まれてきた | これから競合する立場 |
日本で移動式クレーンを使うには、移動式クレーン構造規格に合わせて使用検査を受け、公道を走る機械は道路の制限にも合わせる必要があります(「移動式クレーンの検査と届出」)。欧米勢は何十年もかけて日本仕様を作り、サービス網を整えてきたので、この壁をすでに越えています。
一方で、欧米勢にも中国勢にもラフターはありません。日本の主役であるラフターは、日本の道路事情に合わせた日本独自の機械だからです(「ラフター・オールテレーン・クローラの違い」)。
これから(運営者の見方)
ここからは運営者の見方です。
- 超大型機は、これからも海外勢の出番。 風力発電やプラントの工事で1,000t超のクローラや超大型のオールテレーンが必要になる場面では、リープヘルのような海外機が使われ続けるでしょう。中国勢が狙っているのも同じ分野なので、ここが一番の競争の場になりそうです。
- オールテレーンは「タダノのドイツ工場製」が増える。 タダノが日独共同開発のACシリーズを毎年のように日本に出しているので、「海外製のオールテレーン」はこれから、リープヘルかタダノ(旧デマーグ)かという選択がより身近になっていくと見ています。
- ラフターは当面、国内メーカーの独壇場。 欧米勢にも中国勢にもない機械なので、この構図はしばらく変わらないでしょう。
まとめ
- 欧米のクレーンメーカーはすでに日本で使われている。リープヘルだけでも、国のリコール届出から少なくとも108台が確認できる。
- リープヘルは1983年から日本法人を持ち、超大型のオールテレーンとクローラで存在感がある。
- 旧デマーグは2019年にタダノが買収し、いまは「タダノ」の製品として日本で売られている。
- グローブは、2003〜2018年はコベルコの看板で、2021年からは専門代理店を通じて日本で売られている。
- 欧米勢は日本仕様を作り込んできた点が中国勢との大きな違い。ただしラフターは、どちらにもない。
「現場でリープヘルやグローブを使っている」「KMGに乗っていた」など、実際に使った方の感想があれば、ぜひコメント欄で教えてください。


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